ヒビスタ日記

泌尿器科医師のブログ。日本人の泌尿器科リテラシーが上がることを願って記事書きます。

男性罹患率第2位の癌~前立腺癌の薬物治療~

 

前立腺癌は、PSA健診の普及により悪性新生物の中で男性罹患率第2位となっています。80歳以上では、半数以上に潜在的前立腺癌がみられるとされています。

 

そんな前立腺がんの薬物治療についてまとめてみました。

 

前立腺癌の薬物療法の基本はホルモン療法です。ここでいうホルモンとは、男性ホルモンといわれるアンドロゲンのことです。前立腺癌は、アンドロゲンによる刺激で増殖するため、アンドロゲンの作用を少なくすることで前立腺癌の増殖を抑えるホルモン療法が行われます。

前立腺癌への最初のホルモン療法は、アンドロゲン受容体に作用する抗アンドロゲン薬(カソデックスやオダインなど)やLH-RHアゴニスト(リュープリンやゾラデックスなど)、LH-RHアンタゴニスト(ゴナックスなど)が使用され、組み合わせて使用されることが多いです。LH-RHアゴニストとLH-RHアンタゴニストは視床下部-下垂体に作用し、精巣でのアンドロゲン産生を抑えるように作用します。

前立腺癌の増殖の機序から考えても、ホルモン療法は前立腺癌で効果がみられることが多いです。ですが、上述したホルモン療法を続けていくと次第に効かなくなる時がきます。そのタイミングは人それぞれで、半年くらいで生じることもあれば10年以上生じないこともあります。前立腺癌の治療をしていく中で、ホルモンに影響されない癌細胞が増えていくことがホルモン療法が効かなくなる原因とされています。

ちなみに、このようにホルモン療法の効かなくなった前立腺癌のことを去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)といいます。定義では、血清テストステロン(アンドロゲンの95%を占める)値が50ng/dl未満に抑えているにも関わらず癌の状態が悪くなっていく状態とされています。

 

CRPCの治療は、以前まではドセタキセルという抗がん剤による治療をするのが一般的でした。ドセタキセルは効果がみられることも多いですが、倦怠感やしびれなどの副作用が問題となることが多々あります。ですが、2014年以降に新薬(ザイティガ、イクスタンジ、ジェブタナ)が開発されてから治療の選択肢が一気に増えました。

ザイティガは、アンドロゲン合成を抑える作用を有します。精巣、副腎、前立腺癌の細胞自体からのアンドロゲン合成を阻害することにより、従来のホルモン療法よりも強力にアンドロゲン作用を阻害します。イクスタンジは、アンドロゲン受容体を従来のホルモン療法よりも強力にブロックすることで、アンドロゲンの作用を抑えます。また、アンドロゲンと結合した受容体が核内に移動するのも阻害する新たな作用も期待されています。

ジェブタナはドセタキセルと同様の抗がん剤であるため同様に副作用の問題がみられるが、ドセタキセルによる治療後にも効果があるとされています。保険上もドセタキセルを使用した場合でのみ承認されています。

 

CRPCになった場合の治療を大まかにまとめると、

最初にドセタキセルまたはザイティガまたはイクスタンジの投与を考え、ドセタキセルを投与し効果が不十分であった場合にはジェブタナが使用できるようになるという流れになります。

ドセタキセルかザイティガかイクスタンジのどれを最初に投与するかについて明確な基準はありません。ある程度の方針の立て方として、ドセタキセルやジェブタナといった抗がん剤は副作用の関係で全身状態が悪い患者様には使用しにくいため、投与するなら初めのほうで投与することが多いです。また、ドセタキセルとジェブタナが点滴による投与方法なのに対して、ザイティガとイクスタンジは内服のため投与がしやすい特徴があります。ザイティガとイクスタンジの投与順序は明確に決められていませんが、ザイティガを先に投与する場合の方が治療成績がよいとされています。ただ、ザイティガは副作用としてステロイド合成が阻害されるためにステロイドの併用が必要となり、心臓や肝臓の異常を有する場合は投与できない場合があります。

 

このように、前立腺癌の薬物療法には多くの種類があり、今後も新規薬剤が出現すると思われます。でも、治療するうえで何より重要なのは、その患者様の全身状態や症状であり、個々に合わせた治療を行っていくことが重要になります。